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「おーおー、おいし?」
小さな口を巧みとは言えないふうに行使しながら、夢中になってパウンドケーキに齧り付くドラゴンの赤ん坊に、思わず笑みがこぼれた。連れて帰って来たかたちになる息子の話によると、どうやら成長したところで人間の膝の高さ程度にしか大きくならない種のドラゴンらしい。赤ん坊がいつ赤ん坊でなくなるのかも、さすがにドラゴンを育てた経験は無いからよくわからないが、十分に自我は芽生えているようだからこの新しい家族もじきに大人と呼べるまでに成長するのかもしれない。息子に随分懐いているようだから、そうだとしても巣立っていかないかもわからない。
「まーったく、あの子もしょうがないやね」
口の周りについたかけらを摘んで取ってやりながら、椅子を引き寄せて隣に腰掛ける。
息子が見つけたとき、このドラゴンは一匹で遊んでいたらしい。母親らしき姿も無く、ただ牝の一角獣が一頭、側についていたそうだ。話を聞けば一角獣もその日の朝に見つけて、辺りに同じドラゴンがいないか探していたという。互いに連れが居ないのなら、と、託されたようなかたちでドラゴンを一行に加えた息子が、兄弟代わりに懐かれるまでそう時間は掛からなかった。
その息子は、朝も過ぎて空が高くなった頃である、ベッドで寝息を立てるまま寝返りすらうたない。
「ま、久しぶりに探検して疲れたんかな。ねー、おまえは元気なのにねー」
答えたつもりか、シュガーを見上げて一声上げる。妙に満足げな表情がおかしくて、小さな額を指先でつついてやると負けじとばかりにじゃれついてきた。
舞台を床の上に移してしばしじゃれあっていた。寝ぼけ眼の息子がそこにやってきた頃には、時計の針は正午を越えていた。
「………?…仕込み、…まだ、途中……」
夢の中では仕事をしていたらしい息子の的外れな発言にすぐに笑い始めるあたり、こう見えてこの赤ん坊は案外頭がいいのかもしれない。
まあ何でも構わない。笑っていられるに越したことはない。
「これ、途中で居眠りこいたらおばちゃんに怒られんよ」
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