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冷えすぎたカナダ・トナカイはインディアンの仲間だったらしい
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「ありゃ」

 呑気な声を漏らしてシュガーは手元の羊皮紙を裏に返した。
 特に慌てた様子でもなく、ひっくり返しては裏から光に透かすだの、そういったことを紙切れ一枚を相手に繰り返す。オーレリアのひどく不思議そうな視線に片手をひらひらと振って返しながら、今度は順に角度を変えて覗き込む。
「んあー」
「…どうか…?」
「いやちょっとね…あーこうか」
 一人で納得して、羊皮紙を手に立ち上がる。
 先まで自分が腰を下ろしていた切り株のちょうど上のあたりに水平に紙を持つと、シュガーは右手の指を鳴らした。
 乾いた音とほぼ同時に、紙の四隅に小さな火が灯る。正確には紙に着火したのではなく四隅のわずか上空に揺らめくだけだったが、どうやら魔法陣の描かれているらしいその紙の用途としては正しい手順のようだった。
「普通に船とかで来るんじゃないわけね。あたしも帰りはこれにしよっかな」
 独り言のように紙に向かって話しかけながらシュガーは紙から手を放す。
 もはや自ら浮遊していた羊皮紙は、灯された火によって急にその身を灰にした。


 切り株の上の灰を踏み、軽やかに降り立ったのは十代半ば程度の少年であった。頭をひとつ振ると髪に絡まる羊皮紙の切れ端がはらはらと落ちる。すこし撥ねた髪の色こそ異なっていたが、やや女性的な目鼻立ちも、少なくとも歳相応のやんちゃさは全く見て取れないその様子も、シュガーに通じる雰囲気を持っていた。
「いやーん久しぶりー元気そでいいこった!」
 もっとも、それらの特徴を観察するよりシュガーの歓声から察する方が早いと言えたが。
「オーレちゃんオーレちゃん、これマイサン」
 小柄なシュガーの隣に立てば見た目には背丈も十分あるように思えたが、実際はそう高いとはいえないだろう。目の高さはようやくオーレリアと揃うかという程度だった。

「急で悪いんだけどさーあたしちょっくら村帰ってお産手伝ってくんのね。ありんこの世話とかもあるしその間この子置いてくから、よろしくしちゃってちょうだいよ」


 息子はついに口を開かなかったが、寄って来た蟻にも特に動じない様子からは敵意も反感も感じなかった。

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