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冷えすぎたカナダ・トナカイはインディアンの仲間だったらしい
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「おーおー、行ってきんさい」

 トーストを齧りながら返ってきた答えはまあ予想通りであった。
 それでも大きな瞳でひとつ瞬いて、少年は念を押すように母を見つめる。視線に気づけばもとより上がりぎみの口の端をにやりと吊り上げて、母は片眉を上げて見せた。そういえば十六の子を持つようにはとても見えないとこの島に来てからもしばしば言われたそうだが、それをえらく満足げに自慢する様子は、子にとってはやはり“それなりの年の母親”でしかなかった。
「男子は冒険してなんぼじゃい。もうこの辺じゃあの草人間も出ないから安心して、ぐるっと見ておいで」
「……でも」
「あたし?あたしはゆっくりオーレちゃん待ちしてんよ」
「……」
「いやいや、せっかく村から取り寄せたベリーティーあるし満喫したいのよう」
 ともすれば一人で喋くっているように聞こえるが会話は立派に成立している。短く息をついて、身支度として少年がヨーヨーを手に取ると、くっついて来ることになったドラゴンの子供が少年の肩に飛びついた。
 何事かと見遣ると、どこに遊びに行くのかとでも言わんばかりに目を輝かせるものだから、少年は降ろすことすら潔く諦めた。
「ぼろぼろになって帰っといでー」
 何種類かのベリーのフレーバーを空気に溶かしながら母は笑った。
「その方が男があがるよ」

 不満げに歪む口元も、眉間の皺も、それを確かに表情の変化と見るのは母くらいだろうと少年は思っている。
 実は彼の表情筋は、彼自身が思うよりはるかに発達しているのだけれど。

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